絶版新書は、書き下ろしの文章に加え、絶版になった本(の一部)を収録して、新刊として世に出す試みで、自分の出版コンセプトの大きな柱になっている。絶版になった本の文章を、どういう文脈で語れば意味のあるものになるか、にかかっている。時代を経てもかわらないものはあるし、今だから振り返ることもある、という前提に立っている。

このところ、少しずつ認知度が広まってきて嬉しく思う。自分が書いた本が絶版になった人たちからの問い合わせがある。自分がまったく知らない分野の本も多く、読むと勉強になるし、打ち合わせをすると、必ず過去の議論になるので、物事の変化が捉えられる感覚がある。「むかしは○○だったけれど、今は☓☓だ」みたいな感じ。その変化を知っておくことが重要だと思えると企画に近づく。意味がある形で再編集して、読者にその内容を再提案できるかが鍵になる。これを考える時間がたのしい。単なる再利用ではない。

出版社に勤務する編集者からも問い合わせをもらうこともある。コンセプトを伝えると「いいね!」となることもあるけれど、だいたい会社に話をするとNGとなる。うちがやっていることが成功事例でないことがネックらしい。成功事例がないと先に進めないのは人の思考を停止させるし、停止の結果として拒否するだけの判断となる。そもそも成功とは何なのか?成功ではないかもしれないけれど、進行事例から学べることはあるのか?を考えることが必要なのだ。当事者に話を聞かないで、あるいはまともに考えることをしないで、ひとりよがりな勝手な印象から新たな一歩を踏み出さないのは大きな損失だと思うようになった。ひとのことはどうでもいいけれど。

絶版新書のコンセプトをだいぶ前にある人に相談したことがある。有名大学卒業してだれもが知っている出版社に務めている人で、自分より年上の人。結果は猛烈に反対された、というより馬鹿にされたという印象が強い。「そんなアイディアはうまくいくわけはない。(出版界を代表する)うちの会社だったら絶対に検討しないようなこと」と言いたげたった。

『「ありえない」をブームにするつながりの仕事術』では「パクチー料理専門店?何?それ?」と中小企業診断士や外食コンサルタントから反対され続けたことが書いてある。それでも著者は、そういうことを何度も言われていると、逆にチャンスだと考えるようになった、と述べていて、それをブルーオーシャンならぬグリーンフィールドと表現している(パクチーだから)。この精神力は感服しかないけれど、自分はこの言葉をもらって、元気がでた。

絶版新書は成功と言えるにはまだまだだけど、第2弾『ランニング登山』を今年の8月出してから、これは行ける!と思ってきた。この本を復刊することを「ありがたい」と思ってもらえる人と直接話しができたり、絶版新書って何?と興味をもってもらえることが増えてきたことも大きい。刊行後も、執筆を協力してもらったら松本さんとあい、ランニング登山講習会を主催したり、大会会場に行き、告知をさせてもらったり、アスリートの会合に呼んでもらったりしたことで、どれだけの人と出会えたかわからない。1冊の本を作っただけで、こんなに人とつながれたのははじめてた。この本のおかげで、マウンテンランニングのトップアスリートの人たちと知り合いになり、宣伝してもらったことも多々ある。先日はSkyrunning Night 2018というイベントに呼んでいただき、サポーター企業としてプレゼンする機会を与えていただいた。出版する前にそんな計画があったわけではない。出版したことで、呼んでもらえたということ。やれば人は動く、やらなければ埋もれる、手足を動かさず汗をかかずに口だけだせばうっとうしいと思われる。それを実感できたことは大きい。

次の絶版新書の企画も進んでいる。つながりのつながりでうまれた企画。出会いや縁を大事にするからこそ、「ありえない」仕事ができていくのは間違いないと思っている。

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