時間のビジネスについて考えることがある。時間という要素がどれだけ消費者の購入に影響を与えるかというとだ。わかりやすいところで言うと、タイムセールス、閉店セール、決算セール、セミナーの早期申し込み割引、賞味期限が迫った食品の割引などか。いずれも正規の値段より安く買えるのが通例だ。安く買えるというのは購入動機としては一番わかりやすい。
長期的な時間で考えると、保険、ローンなどもそうだ。時間を見方につけることで、月々の支払いを抑えることができる。保険などは今入っておけば、総額の支出は減りますよ、というトークが可能だ。レストランなどで限定○食などというのも、時間を利用した売り方だ。消費者にいつでも買えるわけではない(あるいは、買えても高くなる)と思わせるところがポイントだ。
見方を変えると、食事もそうかもしれない。人は黙っていてもお腹がすく。理屈抜きで時間が経てば、食べ物・飲み物が欲しくなる。だからコンビニや外食産業やお弁当などの商売が成り立つ。安くしなくても人は食べ物・飲み物が必要だ。
健康面で言えば、たとえば、老眼とか白内障もそうだ。ある年齢に達すれば必ずメガネや手術などの対応が必要になる。老眼鏡は必ず売れる。白内障の手術も必ず必要になる。入れ歯もそうかもしれない。生きていれば、必ず発生する出費だ。そう考えると、時間軸を利用してビジネスをしている業種はたくさんある。対して、出版はどうか。
出版社はいつでも買える状態にしておくことが望ましいとされる。売り逃しは好ましくない。だから最終的には返品されることを承知の上で増刷をかける。本がなくなると書店の棚を他社にとられてしまうという意味合いもある。ただ、再販制度ゆえ、購入動機としてもっともわかりやすい値引きができない。
この間近所の小さな書店が閉店したが、閉店間際にある雑誌を買おうとすると、「その雑誌はあと数日で新しい号が出るから今買うことないわよ」とお店のおばちゃんが教えてくれた。もちろん閉店セールなどやることはない。どういうことか。書店は売れ残った本を返品すればお金が戻ってくる。今、売らなくてもいいのだ。書店の店じまいは他の業種よりもよっぽど楽なのだと思う。
出版に時間軸を取り込むことは可能なのか。自分は可能だし、可能にしなければこのビジネスに先はないと思う。それは再販商品としてとしてではない。むしろそこから脱却したモデルが必要なのだと思う。再販制度にのっかり、出版流通にのせるのは、不特定多数にリーチする方法としてとっても魅力なのだが、昨今は、思うように配本できないし、そもそも本屋に足を運んでくれる人は減っているし、値引きはできないし、書店でのPOSデータもほとんどは手に入らない。そこにぶら下がる必要はあるのか。
自分にとっては、書籍を非再販商品にして時間軸を販売に取り込むことが今後のテーマになりそうだ。