企画が通ると、「じゃあ、その方向で執筆お願いします」となる。ただ、著者のほうは、いざ書き始めてみると、思うように書けないことが多い。自分たちが納得して立てた企画なのだけど、いざ執筆となると気が重く、なかなか着手できないケースも多い。書き始めは「何度も書いては消して」を繰り返すことも少なくない。皆スロースターターなのだが、新しい経験なので当然のことだ。

版元の編集者時代は、こういうことをあまり考えなかったのだけど、実は、執筆する人の不安はかなり大きいということだ。専門知識はありながらも、それをどう表現するかは別のスキルだし、実際その文章が編集者が求めているものかどうかもわからない。だからまずはサンプル原稿を見せてもらって方向性を原稿で確認するプロセスが必要なのだ。このこと自体はよくあることだけど、ここで、著者の不安をどこまで消せるかがポイントだと思っている。

引いては、これをどこまで丁寧にやれるかが、どこまで質を高められるかにかかってくると思う。ただこれをやるのはものすごく根気のいる仕事。でもとことん著者の議論をして伝えたいことを適切な言葉で伝えたいと思う。

この間、あるクライアントに事務所に来てもらって(缶詰になってもらって)、執筆にとりかかってもらった。自分は仕事、クライアントは執筆。それぞれ作業を進め、あるところでその文章を見せてもらう。そのときに迷ったこととか書きにくい部分などを議論する。それを10時〜5時まで続けてみたところ、かなりの疲労感とともに達成感を感じることができた。

文章には正解はなく、編集者の好みも文章の評価に影響する部分が大きい。だからといって、ラフに書いてその修正を編集者に委ねていいわけはなく、自分たちがどこまで書きたいことについて真剣に考えたかで、その本に対する愛着も変わるというものだ。それが著者の満足感にも繋がるのだと確信する日々。原稿を書こうともしない著者は論外。

 

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