出版不況を語る際に、よく「一点あたりの平均実売数が減少したから、新刊点数を増やした」という言い方がされます。出版社の編集者もこういいます。ただ、これは半分合っていて、半分正しくないような気がします。

自分の仮説は、「新刊点数を増やしたから、一点あたりの平均実売数が減少した」という要因もあるのではないか、ということです。これを検証するのはなか難しいのですが、もしこれが事実だとすると(仮定の話です)、要因としてどういうことが考えられるでしょうか。

一般に出版社として「今年は新刊点数を増やした」という場合は、ほぼ100%の確率で、編集者一人あたりの担当は増えています。新刊点数を増やすから、その分編集者にしわ寄せがいかないように、外注体制を整えよう、というもとはまずありえません。

新刊点数を増やすことで、(一時的に)売上を上げることを戦略として、選択した場合は、制作コストを上げるようなことはしないというのは想像に難くありません。

では編集者の現場はどうなるか?というと…。

・担当冊数が増えるので、労働時間が長くなります。

・企画について考える時間が少なくなります。

・著者のコミュニーケーションする時間が少なくなります。

・ゲラを丁寧に読めなくなります。

・タイトルもとりあえず考えたものでOKとします。

これらは自分がすべて経験したことですが、心当たりのある人も多いはずです。

そういう状況でもなんとかするのが、プロの仕事ですが、それでも一人の人間がクリエイティブに活動できるキャパシティには限界があります。本当にいいモノが作れているかというと「?」の人も多いと思うのです。つまり、新刊点数を増やすことは粗製濫造を選択していることにならないか、という疑念があるのです。

売れないから新刊点数を増やす、新刊点数を増やすから売れない。どちらが原因でどちらが結果なのか判断するのは難しいことですが、一社としては合理的な判断(=売れないから新刊点数を増やす)が、マーケット全体としては、真逆の帰結(=新刊点数を増やすから売れない)になっているかもしれないと思うのです。実際は両者がフィードバックする形で作用していると思いますが。

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