『出版とは何か』(西谷能雄著/日本エディタースクール出版部)を繰り返し読んでいます。これが40年前の本なのか?と思うほど、ここで議論されている問題は今日的でびっくりします。ここで語られている問題は、時代性ではなく、業界固有の問題で、時間はたってもあまり解決されていないようにも思うのです。ちょっと長くなるけれど、心に響く部分を引用します(この本自体が心に刺さりまくりですが)。

出版業が一般的にいって、出版社・取次店・小売店の三者によって成り立っていることは、もやは常識である。しかしそれ以前に著者が存在し、読者がその根底にあることは、ややもすれば忘れられがちである。一見きわめてあたりまえのこのことが、業界の数量的繁栄の陰にかくされて見失いがちであるところにこそ、業界全体の病態と退廃が看取されるというものである。極言すれば、恰も、出版社・取次店・小売店があるからこそ、出版業が成り立ちもし、繁栄もするといった錯覚が、自分をも含めてわが業界にないといえるだろうか。そのような錯覚が何らかの疑いもなしにまかり通るような状況が今日の出版界にないといえるだろうか。一方に数量的繁栄に酔いしれながらも、業界的には大きな矛盾と苦悩にあえがざるをえない奇異現象が現出していると私には思えるのである。もっというならば、出版の関連企業として印刷・製本・用紙その他のもろもろの業種が、きわめて地道な形で出版業をその根底からささえていているという現実をも忘れがちである。恰も突如として商品が生まれたかのごとく、それをめぐって、やれ定価がどうだの、正味がどうの、部数がどうの、売行きがどうの、と騒いでいる業界の姿を、いったいどう考えたらいいのだろう。日常性に埋没し、微視的世界から這いでることもできないでいるわれわれにとって、今もっとも欠如しているものは、まさにわれわれの業界の矮小で、みじめな姿を冷酷に見すえる客観的で巨視的な視点ではないだろうか。

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