いろいろなジャンルを手がけていますが、最近ある資格試験書の企画をしています。資格試験書の企画・編集は、ビジネス書とはまったく違った発想が必要になります。以下、自分が気をつけていることをまとめました。

1. 正確さとボリューム

質・量ともに「この本をやれば合格できる!」と思ってもらえるコンテンツか。これが最重要。これができていれば、使ってもらえる人は増える。これを感じてもらなければ、使ってもらえない。当たり前だけど、当たり前にできていない。

2. わかりやすさ

正しい記述とその記述のわかりやすさが、本の生命線。「わかりやすさ」を読者のレベルで考えているか。常に追求すべきテーマ。

3. 書名タイトル

どういう性格の本なのかが伝えられているか。テキスト・問題集・一問一答・模試などわかりやすいか。学習者を惑わせないネーミングが必要。あと受験生が略称で呼びやすいかどうか、ということも考える。

4. 発売時期

発売時期は適切か。どの学習者にも勉強をし始めるタイミングがある。インプットの時期に、一問一答を出版しても効果は薄い。タイミングに合わせて、発行計画を考える。出版社の予算計画など読者にはまったく関係ない。

5. テキスト・問題集の連携

テキスト⇔問題集の連携は丁寧か。テキスト一冊終わってから問題集にとりかかるよりも、単元ごとにテキスト⇔問題集を何度も繰り返す人が多い。テキスト内での問題集へのリンク、問題集内でのテキストへのリンクなど、使い勝手はいいか。「本書の使い方」での詳しい説明必要。学習法を提案するつもりで「本書の使い方」を書く。

6. カバー表1のキャッチコピー

上記の点も含め、使い勝手のよさが表1のキャッチで伝えられているか。Web連動・法改正情報更新など、フォローのよさが伝えられているか(問い合わせ対応の告知はできているか)。今後は音声も含めたWeb連動企画がより重要な戦略になる。

7. カバー背のキャッチ

平積みで置かれることは多くない。棚に差した状態で目立つキャッチコピーか。資格試験書はページ数が多いので、背幅が広い。背のキャッチを丁寧に考える。企画がとんがればどんがるほど、キャッチが効いてくる。

8. カバーデザイン

5.キャッチコピーとあわせ、外まわりでもっとも気を使うところ。カバーデザインは受験者に認知されるまでに時間がかかるので、初年度で認知されたらできるだけ基本デザインは変えないようにしたい。年度版は改訂のポイントが明確なことも大事な要素。中身は変わらないのにカバーだけ変えているケースも多いが、受験生の目先を変えているだけ。

9. 問題集収録の問題の種類

最新の試験問題ができるだけ多く収録されていることが大事。改訂作業がおろそかになると、最新試験からの問題数が多くなくなる。また、オリジナル問題か、過去問題かの明記も学習者の関心事。カバーに明記する。

10. シリーズ感

テキストと問題集の2冊で合格できる資格は多くない。それ以外に入門編や過去問題集(分野別・年度別)、一問一答、模試などが必要になる。シリーズ全体の使い方の明示は必須。シリーズの使い方は、学習者の学習プロセスに合わせて提案する。

11. 定価

競合他社に比べて、競争力にある価格か。数ある競合書の中から選んでいただくには、できるだけ手に取りやすい価格にしたい。初版部数、配本部数、原価率から逆算して定価を決めていくと、読者には手に取りにくくなることが多い。その前に、より多くの価値を提供できないかを考える。

12. ページ数

ページ数が多すぎると読破するのに億劫に感じるが、薄すぎても合格できるかどうか不安に感じる。適正なページ数か。質と量ともに満足させる必要がある。前項の定価にも大きく影響する要素。

13. 紙面レイアウト

色数は?2色の場合、読みやすい特色を使っているか。私自身、4色のモノを手がけたが、4色をうまく使えると学習効果が上がることを実感する(4色化には、部数・原価率を考え決定する必要がある)。

さらに見やすいレイアウトか?イラストや図表を有効に使っているか、吹きだしやコラムが充実しているか、などにも配慮する。文字だけだと印象弱い(立ち読みは数秒で勝負が決まる)。暗記が多い場合は、赤シートをつけることも必要。

14. データの利用

模試などのデータに基づいた正答率などを出せると学習者の学習の指針になる(学習者は人の出来不出来が気になるもの)。出る順とか誤答率が高い問題の掲載など、数字を出して学習する意味を持たせられると効果的。

15. 著者

信頼できる著者か。著者もブランドのひとつ。よりよい教材の開発には、圧倒的な実績と経験と、執筆に対する意欲が求められる(教えるスキルと書くスキルは別)。あと言うまでもないことだが、編集者の意欲も必要。著者が複数いたり、ページ数が多かったり、シリーズタイトルが多い場合は特に、編集者の覚悟も必要。著者に事前にスケジュールを細かく提示するなどプロジェクトマネジメント的な発想も必要。「なるはや(=なるべく早く)」ではいいものは絶対にできない。

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以上、自分が気をつけていることですが、資格試験の性格や難易度によっても異なるため、常に当てはまるとは言えません。ただ、ビジネス書や英語教材の作り方とは明らかに違っています。

一般に、資格試験書は、色数は多いし、図表やグラフ、イラストなども必須の上、コラムやワンポイントなどのコーナーもあり、自ずとレイアウトも複雑になるのですが、こういう作り方が、読者の理解を大きく左右するものだと思っています。

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