小規模な出版社を始める人は編集者であることが多いのだけど、編集者の自分は「黒子」と思う人が多い。というか自分もそうだった。著者が前に出る人で、自分は後ろにいる人。それはそうなのだけど、小規模出版社でも、その気持ちでやるとうまくいかないのではないかと思う。

大きな出版社は、著名な人に本を書いてもらって、社名で信頼してもらって、買ってもらうということが可能なのだけど、うちらはそうはいかない。ただ著者に前にでてもらうだけではダメ出し、そもそもそういうことを好まない著者も多い。

やるべきは、自分は編集だろうが、営業だろうが、ライターだろうが、小規模出版社をやっているのであれば、代表が前に出ないとダメなのだろう。周囲の人の「こんなヘンな出版社をやっているのは誰か?」「あなたは誰なのか?」の疑問に答えなければならない。このことは別に小規模出版社に限ったことではなく、編集者が自分がやっていることやその思いを発信しまくって、編集者自身のファンを作っている人は多い。本作りにおいては、黒子なのかもしれないけれど、ひとりの人の生き方として主人公になれるのは自分しかいない。

そう考えると、本は著者が書くことかもしれないけれど、そもそもなぜその著者なのか?なぜそのテーマなのか?なぜその装丁なのか?なぜそのデザインなのか?なぜその文体なのか?なぜその用紙なのか?に対する答えは自分そのものが投影されていると感じる。

自分が尊敬する編集者が、特別な存在になるには「見ること、聞くこと、食べること」にこだわること、と言っていたことを思い出す。五感を通して徹底してよいものを吸収せよ、ということだった。当時はあまりよくわからなかったけれど、今、その言葉が再度蘇っている。

書籍は著者のものだけど、自分の作品でもある。そうでないと自分の仕事が存在している意味がないと思う。この文脈で考えると、ブログを書くことやSNSを使うことは、「情報発信」という言葉以上のものなのだ。「情報発信」という言葉に違和感を感じていたのもなんとなくスッキリ。

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