「モノからコトへ」とか「体験を売る」というようなことはだいぶ前から言われていると思うのだが、出版社は相変わらず本を売ることでしか収入の道はないと思っているように見える。さきの投稿(本を「おみやげ化」するとはどういうことか)でも書いたけれど、これからの編集者は、読書体験を買ってもらう仕組み化とか、書籍関係だけのイベント企画力だけではなく、コミュニティづくりなどの知識が必須になってくるだろうと思う。本を作っていればいい時代は終わっている。ただ、本作りで養われた力はほかに活かせる領域は広い。頭をひねれば、だけど。
ただイベントはやっかいだ。イベントづくりとかコミュニティづくりは参加者との直接のやりとり(=つまり出版の流通に流せば終わり、というわけではない)することになるし、参加する人はおのずと小規模となるし、おまけに事務局は大変な労力がかかる。1日5人社員を動員して売上5万円だったら「それは、費用対効果合わないよね」「経済合理性はないよね」などという結論になる。「本作ってるほうがよっぽど生産的だ」と。本当にそうなのだろうか。
毎回同じようなイベントや講演会をやっている東京国際ブックフェアなどに出展するのは「とはいえ、リアルな読者との接点は大事だよね、だれかが主催してくれているし、人もたくさんくるみたいだから出してみるか」と思っているように感じる(ちなみに言うと、あのブックフェアの主催している会社は出版関係ではないところがもろもろ元凶と思えるが、逆にそういうリーダーシップが出版業界にないところがより大きな問題なのだと思う)。
余談だけど、自分はこの間のブックフェアでみすず書房のブースにずっといたが、社員が「本日まで20%引きです!」を連呼していたのはビックリ。ブックフェアに行けば、20%引きで買えることはだれでも知っている。もっと別の価値をアピールすべきなのではないか。モノを売っていることの証左だと思う。
小さな書店やユニークな書店では小規模のおもしろいイベントがホントにたくさんある。業界が不景気になってきたからこそできてきたことだと思う。自分がこの業界に入ったときは、大量に広告を出せばそれなりに売れた時代だった。今はまったく違う。これだけ売れなくなると、著者は原稿を書く人で、出版社は本を作って売る会社という役割分担はもう終わっていると思う。
書籍を大量生産して、大量廃棄して一番被害を被るのは著者たちだ。同時に大量の著者が消費されている。自分がやるべきは、著者のファンを増やすための出版で、著者の魅力的なコンテンツを一般の人たちに伝えるツールの開発だと思う。それが買っていただくことへの近道だと信じている。