■1ヵ月ぐらい前、10月の仕事が忙しいときに、事務所に電話がかかってきた。「ライターの○○なんですけど。なにかライティングの仕事ありませんか?」「???」「○○新聞(とある全国紙)で記者やっていたんですけど、一身上の都合で急にやめることになり、仕事さがしているんです」「???。うちはどうやって探したのですか?」「正直、手当たり次第ですね」「どんな仕事されてきました?」「(具体的な仕事を延々と説明)」「サイトとかブログとかありますか?」「いやー、勤め人だったので、そういう方面はまったくわからなくて…」。声の感じからすると、40〜50代かな。

■こういう話は一見とんでもないことのように思えるけれど、会社を離れて一人で仕事を始めようとすると意外とよくあることなのではないかと思った。特に輝かしい実績がある(と思い込んでいる)人にありがちな気がする。人の気持ちがどう動くとかに無頓着だし、giveが先とか、長期的な利益とか、利他の気持ちとかいう言葉をどう考えるのか。その言葉はもちろん知っていると思うけれど、その言葉を体感しているかというとまた別の話だ。話をしている途中に、かつての自分をちょっと思い出したりして(汗)、ちょっと丁寧に話を聞いてみたけれど、「う〜む」という気持ち。

■そもそもビジネスとは相手の問題を解決することととりあえず定義できる。その問題は本人にとって顕在化していることもあるし、気づいていないこともある。消費者のニーズに答えるのは比較的やさしい。だが「こんな商品・サービスがあったのか」と思ってもらえることは難しい。今回の電話で難しいのは、そのどちらでもない、ということだ。たまたまライターを探していることもあるかもしれないけれど、それが「あなたにお願いしたい」と思うことは稀だ。なんの情報のないからだし、そもそも売り込まれているという感覚が生じるからだ。売り込まれている感覚は損をしたくない感覚と密接に関係している。

■地域で文章教室や読解力講座みたいなことをやったら、新聞記者のチカラは存分に発揮できる。余計なことと言いながら、そんなことも流れで話してみた。「でもやっぱり書く仕事をしたいんですよね、できれば書籍のライティングを」と。住まいを聞けば、地方にお住まいとのこと。地方がダメということではないけれど、東京にある会社に電話をかけてきて、「ちょうど探していましたー!ぜひお願いいたします^^」となるのは極めて稀だ。

■稀であることを覚悟でこういう電話をしているのであればいいけれど、結果がなかなか出ないのでそういう覚悟は短期間でなくなる、と思っている。もっと楽しめる方法はないのか。そんなことを考える余裕がなく、何かやらないと不安だから、こういうことをしているのだろうと思った。わからなくもない。「一身上の都合」も語ることはなかった。自己開示も困難だ。でも最後にその人は「大変参考になりました。またよろしくお願いいたします!」と言っていた。そう言われても、こちらには「△△地方在住の○○さん」というだけの情報しかない。

■会社を離れてどう仕事をするのか? 突然の退職だったら、より考えなければいけないことなんだろうと思う。会社の肩書き抜きの自分がだれの役にたてるのかを考えることしかない。スキルとかテクニックとかということではなく。目指すべきは「何かができる人」と思われるより、「一緒にいてなんか楽しい人」かもしれない。そう思ってもらうことのほうがハードルが高い。そこは目指していないという人がいてもいいけど、個人で仕事をするのであればやっぱり目指したほうがいいというのが自分の考えだ。

■この12月で会社をやめて丸7年になる。縁や出会いを大事にしてこなかったツケは大きいと思い、人との接し方とか自分の気持ちのあり方を変えてきた。いろんな失敗を繰り返し、いろんな別れがあったけれど、ようやく今進んでいる道は間違っていないような気がする。気持ちがないと何も始まらない。「○○さん、ホームページを見て電話してきたのだったら「問い合わせ」からメールを送ることもできますよ。何か伝えたいことがあれば…」。

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