出版の人たちもそれ以外の業界にいる人も含め、いろんな人たちと仕事の話をしていると、共通して出てくる話題がある。「人材不足」ということだ。どの人と話していても、だいたいこの話になる。単なる人材を探しているわけではないことは誰でもわかる。「優秀な人材」をどの会社も探している。この場合の優秀とは、多くの場合、早く利益を会社にもたらしてほしい、ということだ。「即戦力」と言い換えてもいいかもしれない。

即戦力かどうかを判断するには、通常過去の実績が問われる。「あの人はどんな仕事をしてきたのだろうか?」が気になるのは当然のことかもしれない。でも会社を移って、過去の実績通りに働いてくれるか、過去の実績以上に結果を出してくれるか、など誰もわからない。けれど、採用した側はそれを期待をする。期待を込めて採用する。

自分は3つの出版社に勤務したことがある。2社目で売れた企画と同じような本を3社目で作ったけれど、まったく売れなかった。一応の分析はするけれど、原因はわかったようなわからないような。それ以来、その分野での企画をすることはできなくなった。著者に迷惑をかけたし。ただ、まったく予期しなかった分野で「結果」が出せて、毎年年間利益賞なるものをもらった。満足感はなかったけれど。当初の期待は良くも悪くも達成されない。

人が活躍するには、そのために必要な環境とか文脈みたいなものがあると思う。100%のパフォーマンス(あるいはそれ以上)を期待するにはそれなりの舞台が必要だ。それは過去から導かれるものではない。それは何なのかを見極めることはとっても難しいけれど、必要な舞台は、会社が一方的に提供するものだけでなく、採用しようとする人側からのリクエスト・提案にどれだけ柔軟に応えられるかにかかっている(そういうリクエストがない人材は即戦力にはなりえない)。しかし「即戦力」がほしいという言葉の裏には、「過去の活躍に紐づけされた、近い将来の結果や成果への期待」だけしか存在しない感じがする。結果を早く求めれば求めるほど、そうならなかったときに、当の本人はもちろん会社もつらいことになる。

そもそも会社に今ある仕事をやらせようとすると、そこにフィットする人材を探すコストが大きいのではないか?と思う。おもしろそうな人、気が合いそうな人が自分の会社でなんか出来ないか?という発想があってもいいはず。未経験でもまったく問題ない。業界も関係ない。「試しにやってみるか?やってみましょう」みたいなノリで何かできれば、結果は出やすいし、なにより楽しい。そういうノリで仕事ができることが即戦力だと思う。組織内でこれを語るとほぼ却下されるし、それも納得するけれど、人とのこういうかかわりが新しい仕事を生んでいくと最近、確信している。

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