本を書きたい人の相談を受けることがある。いわゆるビジネス書のジャンルで、と考えている人からが大半。最近、気になることは書くことへの意識の変化だ。
本は出したいけれど、書く能力がない、あるいはその時間がないという場合、誰かに教えを請うて、できるだけ効率的に書きたいというのは誰もが考えたいこと。だけど、効率的に書く、ってどういうことなんだろう?と思う。効率的に書いたもののクオリティはどうなんだろう?人の力を借りて効率的に自分しかない経験の本を書くとは?よくわらかなくなることが多い。
書こうとするテーマが、自分が絶えず考えまくって、行動した結果であれば、書くことに躊躇はないと思う。それが世に出せるものに仕上がっているかどうかは別にして。ただ「書けない」という内実を見ると、やっていないことを書こうとしたり、誰かに依存しすぎていることがあると思う。
だれかに教わったところで、いきなり書けるようになれるわけではない。「だれでもスラスラ名文が書けるようになる3つのポイント」みたいなことはない。多少ショートカットできるかもしれないけれど。量を書くことで見えてくることが絶対にあるのだ。どんなに優秀なバッティングコーチについたところで、素振りをしなければ、絶対にうまくならないのと同じだ。
本を書くということは、自分の体験や知識を表現するわけで、本当のところは、誰にも理解され得ない、ぐらいのことを考えればうまくいく。ただそれを表現するためのヒントは、本を読んだり、新聞を読んだり、広告を見たり、日常生活のあらゆるところから見い出すことができる。
これは何も文章の書き方に限ったことではなく、大きく言えば、生き方だってそうだ。誰かからヒントは得ても、誰かに決めてもらう話ではない。『思考の整理学』(外山滋比古著/ちくま文庫)にはグライダー人間と飛行機人間との対比がある。改めて読んで納得するし、自戒もする。
学校の生徒は、先生と教科書にひっぱられて勉強する。自学自習ということばこそあるけれども、独力で知識を得るのではない。いわばグライダーのようなものだ。自力では飛び上がることができない。
グライダーと飛行機は遠くからみると、似ている。空を飛ぶのも同じで、グライダーが音もなく優雅に滑空しているさまは、飛行機よりもむしろ美しいぐらいだ。ただ、悲しいかな、自力で飛ぶことができない。(中略)
優等生はグライダーとして優秀なのである。飛べそうではないか、ひとつ飛んでみろ、などと言われても困る。指導するものがあってのグライダーなのである。
グライダーと飛行機の両方を兼ね備えるためにはどうしたらいいのが、この本のテーマ(タイトルから想像つかないかもしれないけれど)。真ん中よりちょっと後ろあたりに「とにかく書いてみる」の項があるのは本当に興味深い。