東京・田園調布の小さな出版社/出版プロデュース(有限会社ソーシャルキャピタル)

渾身の1冊を作る仕事とは

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渾身の1冊を作る、わたしの仕事

私はひとりで出版社をしています。この形態で仕事をする人たちも増えてきましたね。著者に向き合って本を作ることと並行して、編集のスキルを使ったコンサルティングの仕事をしています。両方とも、どういう順番で、だれに向かって、どのように自分の思いを伝えらた良いか、ということを掘り下げる、かなり普遍的な仕事です。

本作りの仕事は、本を書きたい人に一対一で寄り添い、その人の人生を棚卸しして、書きたいテーマではなく、書くべきテーマを設定して、そのメッセージをどのように伝えたら良いかを、長い時間をかけて議論して、本を書くことのお手伝いをしています。けれど、私はこういったことはあくまでも短期的な目標であって、ゴールではありません。私の真の仕事は、「自分(=本を書きたい人)の持っているものをちゃんと伝えて、お客さまにきちんと向き合うこと」。

だれもが持っている、夢とか希望とか目標だけでなく、欲とかおごりとか、妬み、挫折、不安、恐怖など、書くことを通じて、確認する工程であるともいえます。それを再認識することが大きな意味があるのです。

僕の本作りもコンサルティングも、お客さまとの対話を通して、今抱えている問題を探り当てることから始まります。なぜ本を書きたいのか、なぜそれをしたいのか、本を書くことで何を得たいのか、それをすることでどうしたいのか、こういう根源的な問いに何度も向き合います。その答えとして、表現される言葉の中には必ず世界観は反映されます。「なぜその言葉を使っているのか」。その使い方に敏感になることが大事です。

次に、その世界観は、そのままでよいのか、修正する必要があるのか、修正する場合はどういう方向にか、などを議論します。その軌道修正は、人に合っていないといけません。世の中によいとされていることや考え方でも、個々人に合っていないものはたくさんあります。その人の世界観や価値観にあった方向性を見出すことが私の役割なのです。

今まで、出版社の編集者として、たくさんの著者とお付き合いさせていただき、多くの本作りに携わってきました。はじめての会社に入った当時は本が売れるいい時代でしたが、次第に売れなくなり、どの出版社でも、売れる本を作ることが至上命題とされてきました。経営を考えたら当然の流れかもしれません。結果、企画の方向性も自分のやりたいものとはかけ離れていきました。

今の仕事を始めるにあたり、「そもそもひとりの人が本を出すこととは?」「人が知識や経験を文字にするとは?」「紙の書籍はどうやって出来てきたか?」などの「そもそも論」を学び直しました。いや、初めて学んだと言ってもいいと思います。目の前の仕事に追われるのではなく、こういうことを考える時間をもったことは出版社に勤務しているときにはありませんでした。とにかく忙しかった。

結果としてたどり着いた結論は、「マスメディアがかつてほど、マスに届かなくなっている。不特定多数に自分のメッセージが届くことはとても魅力的なのだけど、それを狙おうとすると、出て来る企画はノウハウ本ばかり。そういう書籍の世界ではなくて、「読みたい人だけに読んもらえる本」を作る意味はある。そのためには著者がやっていることを表現するのではなく、著者そのものを表現する必要がある」ということでした。「人の生きざまは最高の教材」という言葉も頭をよぎりました。もっと正確に言うと、ばくぜんと「人」ではなく、「価値観を共有している人」の生きざま、ということになるのでしょう。

私のお客さまは、いわゆる小規模事業者や中小企業オーナーが中心。小さな会社には、それなりの経営戦略があるように、小さな会社のトップが書く書籍にも出版戦略があると思います。一気に全国マーケットにでようとするのは、書籍でもとってもキケンなことなんですよね。全国を狙って作った本が売れなかったら、次の本はない時代ですから。そうではなく、その人の生きざまを振り返り、大事にしているものを明確にして、それを素直に、特定の人たちに伝えたほうが、よっぽど意味のあることではないでしょうか。格好いいやスゴイことばかりではなく、不安も恐怖も葛藤もある書籍が私は好きです。それが人生ですから。

私は大学・大学院を通して、哲学の勉強をしていました。なぜそこに興味を持ったのか、明確な理由を自覚しないまま、今まで生きてきてしまいました。就職してから、哲学を勉強していてよかったなと思うことはほとんどなかったかもしれません。ただ、今、あのとき勉強したことが今に生きているということを実感します。学問としての哲学というより、自身の哲学を構築するという意味においてです。物事を批判的に捉えるとか何故を問う、などという作業はもっともっと生活の中に取り入れるべきことなんだと思いました。そういう工程を、目の前のお客さまと共有できることが、結果として、本作りやコンサルティングに活きていると思うのです。

小規模事業者の仕事は目の前の仕事に全力投球がすべてだと思っています。人も資金も限られているからこそ、数にとらわれないことです。数を追って力を分散させず、そこに向きあうことがもっとも結果が出やすいのです。結果がでれば、必ず次につながる、そう信じています。AIとか効率化とかとは無縁の世界ですが、人はすべて自分だけのサービスやモノがほしいのです。そこに寄り添うことで存在意味があるということだと思っています。

「自分に本が書けるの?あればいいと思ってるんだけど」という人に寄り添い、いろんな対話をする中で、自分の価値観や後世に伝えたいことや本を書いた人のお客さまに対する姿勢が明確に見つかれば、こんなに嬉しいことはありません。そんな本は1冊で十分。だから自分は「渾身の1冊」を作ることを使命と思っているのです。

 東京・田園調布の小さな出版社 吉田秀次

2018年1月6日 仕事始めにあたって

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