自分はかつて学生時代だったころ読んだ本に感動して、著者に手紙を書いたことがよくある。当時はインターネットもない時代。出版社に「著者の先生への手紙を同封しました。転送をお願いできませんか」という手紙と、著者の先生への手紙を同封した。封筒は、出版社が著者に送る用と著者が自分に送るため用の2つを準備した。ほとんどの人は返事がこなかったけれど、ふたりの先生から返信がきて、めちゃくちゃ嬉しかったことを覚えている。一人の先生とはお会いして、もうひとりの先生とはしばらく手紙のやりとりをしていた。今考えると、お二方ともよく忙しいなか、どこのだれかもわからない若造のために時間をとってくれたと思う。
こういう経験があると、よりファン度は増す。手紙をやりとりしていた先生の本はそれ以降、出版されれば自動的に買っていた。
こういう出会いの場は今でこそ楽にできるのに、出版社のビジネスとしては存在しない。著者が勝手にやっているか、販促目的で書店で出版記念講演会をやるぐらいだ。もっともっと自由に語りあう場があっていいし、もっと言えば、次の本の企画会議に参加できる権利があれば、めちゃくちゃおもしろいのだと思う。今は著者と読者はどれぐらいの距離感なのだろうか。
情報過多の時代、こういうファンの心を激しく揺さぶる経験を作る必要があると思う。自分は、「出版は著者の知識を世に出すだけでなく、読者の脳裏に焼き付けるまでが出版の仕事」と再定義することにしている。いろいろなアイディアが湧きそうだ。