ベストセラーを出すことは本を書く人、本を編集する人、その本を出版する会社、すべての人たちにとっての望みだ。増刷を繰り返せば、だれもが利益を享受できる。それだけに「重版」ということばは関係者にとって、とってもうれしいことばのひとつとなる。

ただ、ベストセラー出せば出すほど弊害があるのも事実だ。簡単に言えば、書く人、編集する人の思考が大きな数字を狙いにかかるということだ。たまたま生まれたベストセラーを経験すると、編集者は企画も著者も大きな数字を狙うのだ。

出版前は2万部で大成功と思っていた企画が最終的に20万部まで到達すると、次に立てる企画は「せめて10万部は」という気持ちになる。そのことは当然かもしれない。数を打たないと当たらないので、その可能性を秘めた企画が多くなる。結果は…。すべて行っていたら、この業界は右肩さがりになっていない。

自分は学生時代に野球をやっていた。「大勝した次の試合は危険。無意識的に長打を狙って振りが大きくなるから注意せよ」と監督から口酸っぱく言われた。前の試合で快打を飛ばした残像が脳裏に焼き付いていると、スイングがブレることは自分でも経験したことだ。でもわかっていても修正できないこともしばしば。やはりバットの芯で捉えることを意識して、コンパクトに振りぬくイメージを再度インプットすることが基本なのだと痛感した。

本の世界も同じだと思う。ビッグヒット(=ホームラン)をねらって、実現できるケースはごくわずか。再現不可能な不確定要素が追い風となって、記録できたのでは?と思うこともある。それ自体はいいことなのだが、本を書きたい人は、長い目で見て、ビッグヒットを狙うことがのちに与えるネガティブな影響について考える必要があると思う。

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