ここ2〜3日風邪をひいてしまい、仕事はできないわけではないのだが、無理にやっても二度手間になりそうなので、最低限の仕事だけして休んでいた。

こういうときこそ、普段読まない本を、と思って手に取った本が『昔日の客』(関口良雄著/夏葉社)。10月に開催されたかまくらブックフェスタに行ったとき、夏葉社の島田さんに勧められて買ってきた。

この本は、東京・大森にあった古本屋「山王書房」の店主が書いた随筆の復刻版。オビには「古本と文学を愛するすべての人へ」「名著復刊」とある。自分は古本にも文学にも詳しいわけではないけれど、読み終わったとき「この本、なんかいいな」と思った。

「なんかいい」というのは、自分の中でうまく言語化出来ないけれど、とっても心に残る出来事という感覚だ。あえて文字にしないでもいいのではという感覚もある。この本はそんな気にさせてくれた。

概略的なことを書いておくと、この本は30ぐらいの小編から成り立っていて、内容は、古本のことはもちろん、古本を通して知り合った人たち、数々の文学者たちとの交流、子供のころの思い出などが収められている。1編のページ数はだいたい4〜5ページなのだが、なぜか何度も読み返すので、意外に時間がかかった。店主の本とのコミュニケーション、作家とのコミュニケーション、お客さんとのコミュニケーションが伝わってくる。その間(ま)とか雰囲気とか情景も目に浮かぶ。こういう文章は「なんかいい」。プロの技はこの「なんかいい」という感じを与える人なのだとも最近思う。簡単なようでそう簡単には真似はできない領域。

この本に登場する尾崎一雄、尾崎士郎、上林暁、野呂邦暢、三島由紀夫などの作家たちは大物なのだけれども、読者が惹かれるのは、そういう人たちとコミュニケーションした経験であり、記憶であるのだと思った。人の経験は残しておかなければならない。文章は人の過去を蘇らせる。もしかしてそれは時間を隔てて読まれることになんらかの意味があるのかもしれない。

こういう出版は本当に意味あることなんだと思う。文学にも古本にも詳しくない自分が思うのだから。装丁もホントに「なんかいい」。こういう本を作りたいと強く思った。

それにしても、三島由紀夫の『文章読本』が「寝転びながらの口述筆記」だったとはビックリだった。

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